全ての小説家へお願い


新潮文庫で、黄色い帯の文庫本を2册買うと
パンダのキーホルダーが必ずもらえる、
というキャンペーンをやっている。
そのパンダの名前は「YONDA」というらしい。
今年からはパンダのデザインがかわって、
大人気「100%ORANGE」(デザイナー)が手がけている。
ちょうど、読みかけの本がつまらなかったこともあり、
新潮文庫から2冊みつくろった。
本屋を出たら突然の大雨で、
あわてて近くの喫茶店にかけこんだ。
すぐには、止みそうになかったので、
しばらくここで雨宿りをすることにした。
買ったばかりの本を読みはじめる。
今どきの高校生が主人公の話なのに、
妙に言葉づかいがおばさんっぽい文体なのが気になった。
しかし、ストーリーはおもしろく、数ページほど読み進んだ。
ところが…。
出てしまったのだ。あのお方が。
「なんかのいたずらかしらん。」
かしらん様だ。
私はそれを、かしらん様と呼ぶ。
普通の会話で「〜かしらん」という人に私は会ったことがない。
私は、かしらん様が出てくると、狼狽する。
頭の中で「かしらん」という音をイメージできないのだ。
「〜なのかしら?」
にちょっと「ん」を添えてみたような感じで発音するのだろうか。
聞こえるか聞こえないかの感じで。
口を閉じた状態を「ん」で表現していて
実際は音にはならないのかもしれない。
それとも、「かっしら〜ん」
と、スキップするように「ら」を伸ばして「ん」でシメルような
発音をするのだろうか。
サザエさんだったら言いそうだ。
もしくは、最近はやりの
「すべすべ?みたいな?」
「俺が?そう思ってた?ていうか?」
のような、関係ないところに疑問系イントネーションをつけて、
同意を求めるような
「〜かしらん?」
という尻上がりで発音するのだろうか。
まぁいいや。
気をとりなおして、次を読み進む。
先は長いのだ。
まだ10ページも読んでいない。
ページをめくってしばらくしたら、
また、でました!
かしらん様。
今度のかしらん様は
「探検してみているのかしらん。」
だった。
「かしらん」「かっしら〜ん」「かしらん?」
1人目のかしらん様出現から、2ページも読んでないのに
もう2人目がおでましだ。
小説の導入部では、特に集中力が必要だ。
最初の動揺からまだ立ち直っていないうちに
2度目のかしらん様に見舞われて、
私の集中力は完全になくなった。
今までのストーリーも頭からふっ飛んだ。
本をパタと閉じる。
喫茶店は、いつの間にか雨宿りをする人でいっぱいだった。
雨はやむ気配もなく、雷まで鳴りだした。
全ての小説家へ告ぐ。
小説の導入部に、かしらん様を住まわせてはいけない。
また、かしらん様は、少なくとも
50ページ以上離して配置すること。