最後の晩餐




最近まで体調を崩していて、
食べたいものが食べられなかったのです。


毎日ぼんやりテレビを見て過ごしていましたが、
目がいくのは、料理番組やグルメ番組ばかり。
食べ物系のCMも見逃せません。
よだれをたらしながら
「うまそー!食いてー!」
と野獣のような咆哮をあげていました。
健康な時には全く食べたいと思わない
カップラーメンとか、生肉に近いステーキとか、
コレステロール値が高そうで、
健康に悪そうなものには、特に興奮しました。
3分間クッキングも予約して見るほどお気に入りで
料理の具材ひとつひとつに感情移入して、
生で食べた感じ、混ぜて食べた感じを
脳内シミュレーション。
出来上がった料理が画面いっぱいに映し出されると
唾液がじわーっと広がってきます。
もう我慢ならん!と、私はポカリをひとくち。
その時の私にはそれぐらいが精一杯。
某番組に「最後の晩餐」コーナーがあります。
明日この世が終わるとしたら何を食べにいくか、
タレントが、自分のおすすめのお店の
おすすめの料理を紹介するのです。
皆、ここぞ!という料理を出してくるのですが、
それが揃いも揃って、娯楽に徹した贅沢なものばかり。
隠れ家的なお店の極上ステーキとか、
知る人ぞ知る、霜降り牛のしゃぶしゃぶとか、
あまり人に教えたくない秘伝のハンバーグとか、
北海道の新鮮な魚介類を使ったパスタとか…。
飢えた私は、ほとんどトランス状態で
画面にかじりついて見ていたのですが、
よくよく考えてみたら、本当に明日世界が終わるとして
私はこういうものを食べたいだろうか、と、
深く考えてしまいました。
もし本当に本当の「最後の晩餐」だとしたら、
私は、うちの田舎でとれた新鮮な長芋が食べたい。
千切りにして、わさび醤油をかけるだけでいいから。
欲をいえばそれに、筋子がのったご飯があればもっとうれしい。
さらにうちのお母さんが作った馬肉汁があったら、もう完璧。
これでこの世の食生活に悔いなし!
…そう思ったのでした。

長芋の千切りをわさび醤油で



筋子がのっかった熱々ご飯



お母さんが作った馬肉汁


今はもちろん、何でも食べられるんですけど、
あの時食べたかったこってりしたラーメンとか、
生肉に近いステーキとか、
元気になったら絶対食べてやろうと思って
メモまでとっていた料理たちを
今は、全然食べたいと思わないんです。不思議と。
普通に普通のものが食べられる幸せを噛みしめています。
余談ですが、
食いしん坊の相方に「最後の晩餐」を聞いてみたところ、
なぜか、地方のさびれた某ステーキ店をあげました。
そのステーキは、特においしいというわけでもなかったし、
そんなに高級でもないロースステーキで、
私なんか味すら覚えていないのですが、
私と一緒にはじめて贅沢な料理を食べた思い出の店だから、
ということでした。
そういう「最後の晩餐」もアリだね!