ギャルの世界に紛れ込む




先日、あるイベントに一人ででかけた。
(写真とは関係ありません)


そのイベントのちらしには、
有名企業の冠がはいっていたのだが、
学生がサークルのノリでやっているのか、
若いスタッフが仕切っていて、ギャルが多かった。
受付にも日焼けしたギャルがたむろしていて、
私のようにコエンザイムQ10とか飲んでる女は
とてもとても場違いだった。
受付で入場料を払う時「ひとりです。」と言ったら、
「ええー!おひとりなんですかぁ?」
と、とてもびっくりされてしまった。
確かに、ひとりでも定食屋で飯が食う女は
ギャルには珍しかろう、と思った。
お客のギャル&ギャル男率も高い。
つまり、スタッフと客の区別もつかない。
唯一違うのは、スタッフのギャルは
選りすぐりの美形揃いだということ。
お化粧は濃くなればなるほど、
人の顔は均一化して見えるというわけで、
1号、2号、と呼びたくなるほど、
完璧に美しいサイボーグギャル達だった。
お客のノーマルギャルにも好評で、
「あのコたち、ちょーかわいい!」
と絶賛の嵐だった。
にぎやかなイベントもつつがなく進行し、
一時、お客から投票用紙を集めることになった。
投票用紙の集め方がなんだか義務教育ノリ。
出口に投票箱を置いて集めるのではなく、
席の左端の人から右端の人へ順繰りに投票用紙を送り、
右端の人が、スタッフのギャルに、
その列分の投票用紙の束を手渡すよう指示された。
一番右端に座っていた私は、サイボーグギャルに、
「ごめんね。用紙は向こうから来るんで、
 集まったらウチらに渡して欲しいんだぁ。ごめんね。」
とタメ口で話しかけられた。
「ごめんね。」は投票用紙が集まるまで、
何度も繰り返し言われたが、
これは、見ず知らずの人にタメ口で話しかけていることを、
ソフトにする効果を狙っているのだろう。
タメ口だけど、とりあえず謝ってしまえばプラマイゼロ。
でもこれ、思ったけど、
世の中の人全員がタメ口になればいいのに!
親近感があるし、誰でも友達になれるのに!
きれいな女の子にタメ口で話しかけられるのは全然悪くない。
むしろいい気持ちだ。
投票が終わった後もイベントは続いていたが、
途中で帰ることにした。
ここまで付き合っては見たものの、なんか違う。
私だけが浮いている。
帰る前にトイレに立ち寄ったら、
超美形のサイボーグギャルが一人、メイク直しの真っ最中だった。
マスカラつけながら鏡ごしに話しかけてきた。
ギャル「もう終わった?」
 私 「いいえ。まだだと思います。
    今、投票用紙を集め終わったところです。」
ギャル「そう。」
 私 「はい。」
その後、何か話が続くのかと思って様子を伺ったが、
そのまま沈黙してしまったので、
私は小さく会釈をして、トイレの個室にはいった。
どきどきしていた。
今のやりとりってなんかの間違いだよね?
個室の中でこの後の展開をあれこれ想像した。
一番いいのは、私が個室から出た時、
彼女が化粧を終えていなくなっていることだが、
まだいたとして考えられる展開は、
「すいません、私、スタッフかと思って話しかけちゃって。」(彼女)
「あ、そうですよね、間違えちゃいますよね。
 だって、まだお客さん誰も帰ってないですしね。
 いいんですよぉ〜気にしてませんよぉ〜。」(私)
これで決まりかな、と。
一番困るのは、私がスタッフだと勘違いしたままで、
「このあと、打ち上げ行く?どうする?」(彼女)
とスタッフにしかわからない話題をふられること。
これが一番対応に困る。そしたら
「私、ちがうんです。スタッフじゃないんです。」(私)
これしかない。
でも、彼女が「世界はみんな友達」感覚で、
見ず知らずの私に話しかけていたのだとしたら、
どう展開してゆくのか検討もつかない。
「今日のイベントの○○さぁ、ちょーおもしろくない?」と、
普通に会話をふられたらどうしよう。
でも、そういうことになったら、チャンスだ!
私もタメ口レスポンスにチャレンジしたい!
敬語しか話せない自分がきらいだ!
「そうそう。あの人、ちょーおもしろだよね。」
ピンチをチャンスに変える瞬発力!
ギャルとの一体感を味わおう!
「みんな友達」感覚は居心地がいい。
さっきからタメ口タメ口で攻められているので、
自分が10歳ぐらい若返った感じがする。
そんなことを考えていたので個室でモタモタしてしまったが、
「ちょwベンピ?」と言われては不本意なので、
意を決してトイレから出た。
まだいた。やはりメイク中だった。
隣で手を洗ったが、何も話しかけてくれなかった。
この展開は全く予想外だった。
私は小声で「でわでわ〜」といってトイレをあとにしたが、
その背中には何もかえってこなかった。
ギャルはとても親しみやすいが、
時に、とても冷たい。
秋風がやけに身にしみた新宿の夜であった。