粘菌オタクにふりまわされる


学習まんが人物館

秋ぐらいでしょうか。
私は、南方熊楠にはまっていました。
日本の偉人伝では、必ず名前があがる人ですが、
別にブームでも何でもないのに、
こりゃまたすごい地味な人にはまっていたな、と
我ながら思います。


きっかけはラジオの「ねばねば」コーナーの取材でした。
きのこやカビの展示を見学していたら、
粘菌コーナーで、この人の名前が出てきたのです。
熊楠は、昭和天皇に、自分の粘菌コレクションを、
キャラメルの箱にいれて献上したことがありました。
粘菌がお好きだった天皇が、
「キャラメルの箱でいいじゃないか!」
と大層喜んだというエピソードを知りました。

変形菌=粘菌

ここまではまだ私にとって南方熊楠とは
「へぇ、そうなんだ。」ぐらいだったんです。
その後、違う用事で国立科学博物館へ行ったところ、
偶然、博物館の片隅でやっていた「南方熊楠展」に出くわしました。
そこで初めて知ったのですが、この人、奥が深いこと!
どんどん興味がわいてきたのです。
一番有名なのは微生物学者としての偉業でしたが、
その他にも
・霊魂やカッパの研究したり、
・イギリスの大英博物館に勤務していたり、
・サーカス団にはいってアフリカをまわったり、
・政治家の孫文と友達だったり、
・セクソロジーでも一言あったりとか、
予測がつかないほど手広くやってる人だったんです。
いつも全裸でいるのが大好きだったとのこと。
かなりの変人です。

学習まんが人物館より

あまりに多岐にわたる人なので、
この人物を掘るには、相当根気がいりそうですが、
私の興味を一番そそったのはやはりこの1点。
例のキャラメル箱の件でした。

学習まんが人物館より


粘菌コレクションをキャラメル箱に入れた理由は、
たまたまこの箱が、コレクションをいれるのに
ちょうど良かったからということ。
熊楠の飾り気のなさを喜んだ天皇は、
粘菌のお礼にお菓子をプレゼントします。
それが…
練り菓子と干し菓子
だったというのです。
「練り」と「干し」
これは、ネバネバした菌と書く「粘菌」を
意識したセレクトだったとは思いませんか!?
練ったものというのは、ネバネバべたべたしているものです。
干したものというのは、カラカラに乾燥しているものです。
ベタベタしたものと、乾燥したものを
わざわざ同時にプレゼントしたなんて、おかしくないですか?
「練り」と「干し」の対比に何らかの意味があるとは思いませんか?
私は、それが、天皇のシャレっけだったのではないか。
粘菌オタクどうしならわかりあえる、
独特のユーモアだったのではないか、と思ったのです。
そこから、私はいろんな熊楠本を読んだり、
立ち読みすることになりました。
まずは、練り菓子は何だったのか特定しようと思って、
皇室御用達のお菓子の本などを調べたのですが、
残念ながら特定はできませんでした。

猫楠
水木しげる著
熊楠の本はいろいろ
立ち読みしてみたけど、
実際買ったのはマンガばっかり。


でも、調べるうちにわかったことですが、
熊楠がもらったのは、干し菓子7個、練り菓子5個。
干し菓子には、16葉の菊の紋章がついていて、
練り菓子には、12葉の菊の紋章がついていたそうです。
16葉8重の紋章は、天皇家正式の紋章ですが、
練り菓子のほうの12葉の菊、
っていうのはどういうことだったんでしょうか。
12葉がもし、16葉より正式さに欠ける紋章だとすれば、
練り菓子のほうにはやはり「シャレ」がこめられていたのではないか、
と裏読みしてしまうのです。
和菓子のことは大体、練り菓子というらしいのですが、
贈答菓子の定番「羊羹」は、練り菓子に入らない、という説もあります。
練り菓子を「〜個」と表現しているのであれば、羊羹は考えずらいでしょう。
和菓子だとしたら、やはり、ギュウヒや餅できれいに形づくられた
鑑賞価値の高いお菓子だったのでしょうか?

いのしし型の
和菓子


こんな話もあるのです。
南方熊楠の妻は、もらったお菓子をつぶして粉にまぜ、
さらに大きなお菓子にして、
お世話になった村の人達に分け与えた、というのです。

学習まんが人物館より
妻が膝にかかえているのが、
もらいたてほやほやの
練り菓子と干し菓子だ!


つぶして粉に混ぜてさらに大きなお菓子にできる練りお菓子。
それは、きれいな鑑賞価値の高い和菓子ではなく、
見た目より味を重視したお菓子だったのではないか、
と私は思うのです。
しかも、粉とも馴染みが良い練り菓子となれば、
かなりネバついたものではないかな、とも思うのです。
私の希望としては、いかにもネバネバした
まるで粘菌を思わせるような珍品であってほしいのです。
または、ずばり「キャラメルだった」というのでも
キャラメル返し的なおもしろさもあって、
いいなぁ、と思うのです。
今年は、南方熊楠の生誕の地、和歌山へ行きたいです。

猫楠より
熊楠、セクソロジストとしての一面。