喧嘩もする


その日、私はとても憂鬱な一日を過ごした。
相方が帰ってきたので、愚痴ろうと思ったら
相方のほうも相当憂鬱な一日を過ごしたらしく
浮かない顔をしている。
でも、その日の前半だけは楽しかったらしく、
是非、その話を聞いてほしいという。
私は聞くことにした。
本当は自分の話のほうを先に聞いてもらいたかったんだけど、
珍しく相方があれこれ話したいというので、辛抱強く聞いていた。
その話は、とても楽しくて、
どっちかというと、最後のデザートに
とっておいてほしい話だった。
最後のデザートになるような話といっても
「大きな本屋へ行っていろいろ見てまわった」
という、ごく普通の話なのだけど、
憂鬱な日を過ごした我々2人にとっては、
夢のような楽しい話に聞こえた。
しかし、相方はその話に固執しすぎた。
あまりに細かく話しすぎた。
唯一楽しかった出来事にしがみつきたかったのだろう。
す〜〜んごい長い話になっていた。
そこで私は我慢できなくなって
「いいなぁ。楽しそうだなぁ。
 それに比べたら今日の私なんてね、」
と、ついつい自分の不幸をさっさと話して
すっきりさっぱりしてしまいたくなる。
憂鬱話ってのは、排泄物と一緒で、
さっさとすませたいものではありませんか?
ところが。
「ちょっと待って。そっちの話はあとで聞くから。
 それでね、次に雑誌売り場へいってー‥。」
まだまだ話は長いようだ。。
私はつまらなってくる。
なんだよ。
そんな楽しそうな話されたら、
こっちの憂鬱な話をするタイミング、ないじゃんか。
あとで聞くとかいって、どうせいつものように
聞いてるんだか聞いてないんだかわかんないような
相槌をうつんだろうし。
け。
よく考えてみたらいろいろ尾ひれはついてるけど、
文字にしたら
「午前中大きな本屋へ行きました。終わり。」
っていう話じゃんか。
なんでこんなつまんない話を
30分にもひきのばされて聞かなきゃなんないのさ。
と、私は憂鬱で機嫌が悪かったのも手伝って、
怒りがふつふつと、ふつふつと、わきあがってまいりました!
私の相槌が「そ」「あそ」という簡素なものにかわり、
私の不機嫌に気づいた相方が
「で、そっちは?」
とようやく話をふってきたところで、
なんだかわたくし、プチッときれましたっ。
「そっちは?ってさ。いまさら話ふられてもねぇ。」
「なんだよ。だったら初めに自分の話をすれば良かったでしょう?」
「そっちが先に話したそうだったから気きかしたんじゃない。
 あたしの優しさがわかんないの?」
「そんなの優しさじゃない。」
「あ!!いったね!?優しさっていうのは…」
はい。喧嘩勃発!
大体ね。喧嘩ってそんなもんだよ。
30分後には何で喧嘩がはじまったかも忘れてしまってるんだ。
「優しさ」という形而上の問題について争っている
自分達の不自然さにうすうす気づきながらも、
喧嘩気分だけが果てしなく続いているんだ。