長い徒歩の旅でやっとたどりついた実家では、
母が独り、家に閉じこもって暮らしていた。
外は一面に灰が積もって真っ白だった。
私のコートにも雪のように灰が積もっていた。
母は静かに私との再会を喜んでくれた。
そして「あなたがいない間こればかり見ていたわ」と、
あるものを見せてくれた。
庭側の窓ガラスが液晶モニターになっていた。
リモコンを向けると、そこに20歳ぐらいの私が映し出された。
若い私は、庭で雪だらけになりながらこの窓際まできて駆けてきて、
母に「雪すごいよ」とおどけながら報告するのだ。
こんな映像が残っていたとは。
母はその映像を何度も何度も再生した。
映像が終わっても、外の世界は灰で真っ白なので
全く違和感がない窓風景が広がるのだった。
母との再会の興奮が一段落して、私は庭に出た。
しゃがんで、持参した丸いバスボムのようなものを出した。
昔流行ったおもちゃの避難グッズだった。
当時は遊び半分でLOFTで買ったのに。
こんなもの、使う日が本当にくるとは。
それに水をかけたら一瞬で破裂し、
地面に防空壕のようなものを形成した。
中を覗いてみるとおもちゃのような飾り柱が
うっすら光って空洞を照らしていた。
飾り柱のポップさが、避難した時に使うものとしては
不謹慎だったが、こんなのを本気で使う日がくるとは
誰も思わなかったからだろう。
でもなかなかよく出来ている。
もし家がだめになったらここにも避難できそうだ、と思った。
私が新しい避難所を確認して家に戻ると、
母が動かなくなっていた。
母の背中にはバッテリー切れの表示が。
母は最後のバッテリーを使ってまで私を待っていたのだ。
一体、私は母を何年待たせてしまったのだろうか。
そして私は、この真っ白い世界で完全にひとりぼっちになった。
…というジュニューム。