職種柄、社長といえば若社長にしか
出会う機会のない日々だが、
つい先日、某業界の重鎮ともいえる
貫禄ある社長と会食する機会に恵まれた。
琴の音が聞こえる正月風な料亭で、
社長は上座に座り、私は一番下座に座った。
若者だけの無礼講の席しか知らない私は
緊張でかちかち化していた。
重鎮がいると、会話の流れが全然違う。
ひとつのテーブルでひとつの会話。
話題の中心はやはり社長だ。
さすが、荒波を乗り越えてきた人だけあって、
話題も豊富、経験も豊富、裏話も豊富。
あっという間に、トリビアの泉大会になった。
「へぇー」「すごいなぁ。」
「あれってそうだったんだー。」
といいながら、私は次々と出てくる料理を食べていた。
昨夜の違う仕事では、弁当すら出してもらえなかったのに、
今日のこのありあまるほどの食料を山に、
気絶しそうになっていた。
貧乏が板についてきた私は、
ひたすら食べなければと、昨日の分も食べなければと。
そういう山猿のごとき志でいっぱいだった。
お腹が落ちついて、ふと気づくと、
私、さっきから全く話をしてないんじゃないですか?
と自分で自分に尋ねた。
私だけがどの話題にもはいリこんでない。
人生の先輩の話は普段からもっと聞いとかなくっちゃね、とか
今の子供達は、祖父祖母と暮らさないから、
昔話やおばあちゃんの知恵袋を知らずに育つのよねぇ、とか
現代社会を嘆いたりして、食べつつも1人楽しく過ごしていたのだが、
肝心の皆さんとの会話のほうに私がいた記憶がないのだ。
そのことに気づいてしまうと、ますます会話にはいりづらい。
今、ビジネスの話をしているようだから、
セガの社長の話でもしてみようかしら、
と思ったりするが、こんな長い沈黙のあとの
開口一番が「セガの社長が若いんですよ。」じゃ、
「それがどうした?」で終わっちゃうだろうし、
日本の英語教育の話をしているから、
「うちのお父さん、英語教師なんです。」って
これはいけるんじゃないか?と思うけど、
なんか自慢っぽくないか?しかも、
どうやら英語教育が批判されてるようだから、
今そんなこといったら話の流れが乱れるな、って感じだし。
という具合に、時間はどんどん流れていくのであった。
その時だった!
社長の前に座って、話をうまく転がしていた方が、
遠くにいる私を見ていった。
「トモコさん、ゲームの会社にいたのなら、
どうですか?このアイデアは。」
キタ!
なんか突然話題をふられたぞ!
しかも、な、なんか良くわかんないふられ方だぞ!
さっきから社長が、自分の中で暖めているアイデアを話していて、
そのソフト化の話を私にふられたのだった。
私はとっさに、
「そ、それだったらフラッシュでも作れそうですよね。」
一瞬間があって、話転がし師が、
「いやいや、フラッシュというよりはパッケージとして販売したいですよね。
PCのソフトとか、ゲームボーイアドバンスの実用ソフトとして。」
と巧みにフォローした。
Oh No!
社長のせっかくのアイデアを私はウェブ上で動くフラッシュで、
簡単にできるんすよ、甘いっすよそのアイデア。
なーんてことをいってしまったことになってしまったのか!?
久々の発言が失言か!
なんてこった。
ばかだばかだ、あたしはばかだ。
でもそんな意味じゃなくて、フラッシュなら妹が使えるし、
すぐ実現できますよ、是非、実現しましょうという
ポジティブさを出したかったのに。
まずった。
はー。
こんなことだから、社長は私の名前を覚えていないだろう。
結局一度もお話できなかったし。
思えばこんな飲み会ばかりさ、私の人生。
で、この席で私がすごいなと思ったのは
話をうまく転がしていた方で、
あの能力、欲しいなぁ、とひそかに思っているのです。