草履で都内事件


昼間に遠くから見かけて
気になったオシャレ


ミュールもサンダルも履かない私が草履を買ってみた。
コンビ二に行く時とか、
郵便局へ行く時に履こうと思って買った。
サンダル感覚で。
ところがある日、うっかり草履で都内へ行ってしまった。
バス停で自分が草履だということに気づいたんだけど、
急いでいたので履きかえに戻る時間もない。
しまったー。
草履で都内かよ。
と思った。
草履で都内、草履で都内‥、と考えたら
ものすごぉく怖くなってきた。
満員電車に乗ってハイヒールで指を踏まれたらどうしよう。
   →痛い!
公衆トイレが水びたしになってたらどうしよう。
   →すべって転ぶ。
ホームの隙間に草履を落としたらどうしよう。
   →駅員さんを呼んできてもらうの恥ずかしい。
指の間が痛くなって歩けなくなったらどうしよう。
   →家に帰れない。
寒いところで冷え性が悪化したらどうしよう。
   →体調が悪くなる。
信号が途中で赤になって全速力で走る時どうしよう。
   →転んでひかれて死ぬ。
じわーっと嫌な汗が出てくるほど怖い。
草履で都内は怖すぎる。
なんてうかつな私!

気になったので
夜も見にいった
ちゃんといた!


ところが、この日。
草履はどこへ行っても大好評だった。
まず、美容室でオシャレだとほめられ、
打ち合わせで「和の心がある」とほめられ、
飲み会の席で草履の話題でひと花咲いて、
知らない人に涼しそうですねと言われて、
なんだかいい気分だった。
まんざらでもなかった。
それ以来、時々、草履で都内へ出かけるようになった。
ただし、そういう日は持ち物が増える。
靴下と靴を持ってゆくのだ。
指の間が痛くなったり冷え性になった時のために五本指の靴下。
雨が降ったり走らざるを得ない時のために運動靴。
心配性の私なので、デフォルトでも荷物が多い。
その上さらに靴と靴下をしょってゆくわけだ。
かばんはパンパンだ。

「旅行ですか?」と問う。
「そうなんすよ。わかります?」と答える。
自問自答。
オシャレのための努力は、時にむなしい。
でも、がんばるのだ。
オシャレのために!