路上の人観察録


手乗りゴン太君


私の家の近辺にはホームレス(以下HL)が住んでいた。
この春、市のほうで何かやったらしく、
あちこちにあったブルーシートの家は一掃され、
わりときれいになった。
それでも‥いる。
家はなくとも‥HLはいる。



(土管にはいってみた)


多くのHLは、何かしら人間的な営みをやっている。
友達と将棋をさしたり、酒盛りをしていたり、
ラジオを聴いたり、ギターを弾いたり、
空き缶を集めたり、ぼーっと座ったり。

(いい湯だな)


歩道橋の下に一人、何もしないHLがいた。
他人と話すこともなく、
寒さをしのぐ、風よけすら作らず、
サマーベットに一年中寝ている。
夏以外は、布団を頭からかぶって寝ている。
便宜上、サマーと呼ぶ。

(もう2ヶ月、芽が出ません)


きっと夜に活動してるんだろう、と思ったが、
深夜過ぎに見ても、何もせずに寝ている。
早朝から午前中に活動してるんだろう、と思ったが、
早朝も午前中も、やっぱりそこで寝ていた。
猛暑の日に白目をむいていたので、
死んでいるのかと思ったこともあった。
毎日とおる道にいるので、
ついつい日課のように見てしまう。
ごく稀にいないことはあったけど、
本当にごく稀だ。
100回見て1回いないぐらい。
一日中寝られることはひとつの才能だと思う。
人生のほとんどを夢を見て過ごす。
もしかして、現実世界のほうを
夢だと思っているのかもしれない。
いつも横を通り過ぎてゆく私自身は、
サマーの夢の中の登場人物に過ぎないのだ。

(夕張メロンうま!)


ところが。
サマーは、去年の12月の寒い日、突然消えた。
サマーベットも布団もすべて置いて、体だけいなくなった。
そういえば前の晩、救急車の音が聞こえたような気もする。
私は少しドキドキした。
サマーは何日たっても帰ってこなかった。
雨がふる日は布団がどろどろに濡れ、
強風の日はサマーベットがあちこちに移動した。
私は、この粗大ゴミのような荷物を
なんで誰も片付けないのかと不思議に思った。
やはり、この辺に住む人たちはみんな、
サマーの生活を見ていたので、遠慮しているのか?

(被写体がいないんです)


そしてとうとう春になってしまった。
ある日通りかかると、
歩道橋の下に人が寝ていたことがあった。
サマーか!?と思ったが、それは全然別のHLで、
しかもサマーベットは自前ので寝ていた。
こうやって次の住人が決まってゆくのか‥
と、モノのあはれを感じ、俳句でも詠もうかと思った矢先!

(君たち、モデルやらない?)


5月。
サマーが突然帰ってきた。
いつものように、普通にサマーベットに寝ていた。
心なしか、ひとまわり小さくなったような気もする。
私は、ちょっと安心した。
その日の帰り道、相方に「帰ってきてるの!」と言って、
わざわざその道を通って教えてやった。
相方はいつも違う道をまわって帰ってくるからだ。
サマーは帰ってきても、
以前のスタイルを変える気はないらしく、
ひたすら寝ている。

ガチャガチャ
出身です


そして、今日のこと。
曲がり角を曲がったら、私の前を歩いてる人がいた。
サマーだった!
ネジロを離れて!
華奢な足を使って!
アメンボのようにワシワシと歩いてる!
新鮮な風景だった。
100円ライターを片手に、道を曲がって消えいった。
普段、サマーベットの上でしか見たことがない人が、
立って歩いているところを見てしまったので、
ガチャガチャのシークレットが当たったみたいな
そんな気持ちになりました。